15.神様の馬とワガママな男

草原が光っている。

最初は、広大な湖かなと脇田は思った。

たくさんの草の緑が風になびいて、水のようにきれいだった。

遠くに、青い山が見えた。

この草原は山の下まで続いてるみたいだった。

「あれ?」

子供はびっくりして、声を出した。

彼はここから少し離れた丘を見ていた。

彼の見てるところには、たくさんの馬がいた。

「あそこの人」

馬の中に、知ってる若い男がいた。

男は馬の首をつかんで、馬に乗ろうとしていた。

子供は怒って、走っていった。

脇田もついていった。

「だめだって言っただろ。何回言えばわかるんだ、この人」

「ごめんね。でも、今日は馬に乗ってないよ」

と首をかしげて、男は言った。変な声をしていた。

「じゃあ、何してるの」

「なんでもないよ。ただ馬を見てただけだよ」

「なんで馬を見てるの」

「それはね、ハハハ。馬が好きだからさ」

「乗ろうとしてたじゃないか。ねえ、あなたも何か言ってよ」

困ったように、子供は脇田に目配せをした。

脇田がその男の前に出ると、彼は手を出して

「脇田さんですね」

と握手を求めてきた。

思い出した。緒方が夫婦だといっていた若い男女の、彼であった。

「そうだよ。あなたはレイさんだったかな」

「そうだよ。よろしくね」

レイはにこやかに言った。彼は馬のタテガミから手を離して、脇田と子供の間に立った。

「この子はタクバだよ。長老の孫だよ。馬たちの監視係でもある」

「はじめまして、タクバ」

脇田は子供に笑顔で言った。

「はじめまして、脇田さん」

タクバは小さな声で返した。彼はまだレイに怒っているようだった。

「タクバはね、馬だけじゃなく、僕たちのことを見守ってくれてるんだ。長老の命令でね」

「そうなんだ。ありがとう、タクバ」

「いえ、いえ」

タクバは照れくさそうに頭を下げた。

「でも、レイさん。馬に乗るのはだめなんだぞ」

脇田はレイに訊いた。

「そうだね。馬は神様だって、この星ではみんな言ってるよ」

「じゃあ、なんで乗ろうとしたの?」

「それはね、ハハハ。馬に乗るのが夢なんだよ」

「夢?」

「うん。地球にいたときからね。馬に乗って、風を切って走りたいって思ってたんだ」

「地球にいたとき?」

「そうだよ」

「でも、ここはアキュラだ。オラたちの星だ」

脇田は少し驚いていた。レイはワガママ・タイプの地球人だったのか。

「本当だよ、レイ。従わなきゃ」

「由里子もそう言ってた」

「由里子?」

「ああ、あのね。僕の妻だよ。あなたたちが会った女性だよ」

「ああ、そうだったのか」


脇田は思い出した。緒方が夫婦だといっていた若い男女の、彼女であった。

「でも、あなたたちは、どうして地球から来たの?」

「それはね、長い話なんだ。でも、簡単に言うとね。僕たちは、この星について調べてたんだ。そして、この星に着陸する機会を待っていた」

「調べてたの?」

「うん。この星はね、とても不思議なんだ。地球とは違って、時間が流れるのが遅いんだよ」

「時間が遅い?」

「そうだよ。この星ではね、一日が地球の一年に相当するんだ。だから、この星にいると、地球では一年が過ぎるのに、ここでは一日しか経たないんだ」

「えっ、そんなことがあるの?」

「あるんだよ。だから、僕たちはこの星に興味を持ったんだ。この星の秘密を解き明かしたかったんだ」

「でも、どうしてここにいるの?」

「それはね、事故があったからなんだ。僕たちは、この星に着陸しようとしたときに、何かにぶつかってしまったんだ。それで、船が壊れて、墜落してしまったんだ」

「ぶつかったの?何に?」

「それがね、わからないんだ。何か大きなものだったけど、見えなかったんだ。レーダーにもはっきりとは映らなかったんだ」

「見えなかった?レーダーにも映らなかった?」

「そうだよ。不思議だろう」

「きっと氷だ。僕らもそうだった」

「緒方やDEEもそう言ってた。信じられなかったよ。でも、君たちの船もそうだったんだ」

「それで、船は壊れて、海に落ちたの?」

「いいや。幸いにも、僕たちは無事でね。脱出カプセルでパラシュート降下して助かったんだ。でも本体は大破しなかったけれど、再起動出来なくて、それから、この村にたどり着いたんだ」

「パラシュート?」

「ああ、あのね。空から降りるときに使う、布の傘みたいなもの」

「知ってるよ。機体はなぜ無事だったのかな?」

「うん。それはね、着地した場所が良かったんじゃないかな」

「うん、幸運だったんだな」

「この村の人たちには助けられたよ。特に、長老にはね。僕たちを歓迎してくれたんだ。そして、あの小屋を貸してくれたんだ」

「長老が?」

「そうだよ。この村のリーダーだよ。タクバのおじいさんだよ」

「へえ、そうなんだ」

脇田は感心した。長老は優しい人だったのか。

「でも、そんなに良くしてもらったのなら、馬に乗るのは止めたほうがいい」

脇田はレイをたしなめた。

「分かったよ」

レイは決まり悪そうに答えた。

 

つづく

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